患者さんと、医師自身を守る決断 ~ファストドクターでサステナブルな在宅医療の実現を目指す~
公開日: 2024.09.10
更新日: 2024.10.05

医療機関プロフィール
病院名 | 医療法人にのさかクリニック |
住所 | 福岡市早良区野芥4-19-34 |
対応可能な在宅医療 | 麻薬による疼痛管理 IVH(中心静脈栄養) 人工呼吸器管理 気管切開後の管理 経管栄養 在宅酸素 輸血 膀胱カテーテル留置 腹腔・胸腔穿刺 ストーマ管理 褥創の処置 超音波検査など |
診療時間 | 9:00~18:00 |
HP | http://drnino.jp/ |

医療法人にのさかクリニックは、24時間365日のオンコール体制を長く維持してきましたが、マンパワーの問題から徐々に困難になってきました。夜間・休日にも往診対応を続ける中で「このままでは自分自身が生きていけない」と気付かされ、ファストドクターを導入したそうです。
今回は「にのさかクリニック」の院長である二ノ坂建史先生に、ファストドクター導入後の心身の状態の変化や同社の診療の評価など、さまざまなお話を伺いました。
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Q.にのさかクリニックの強みをお聞かせください
医療法人にのさかクリニック院長 二ノ坂建史先生(以下、二ノ坂先生):
当クリニックの強みとしては、在宅診療だけでなく外来診療も両立していることです。一般的な風邪や生活習慣病の悩みでも、気軽に当クリニックに足を運んでいただけます。
在宅診療からスタートする患者さんだけでなく、元々外来から長く診ていた患者さんが在宅に移行する場合もあり、病状が悪化してもシームレスに診療を続けることが可能です。
当院が看取った患者さんのご家族が通院されることも多く、それがグリーフケアにつながることもあります。
当クリニックのもう一つの強みは、毎週水曜日のカンファレンスです。
院内の多職種全員で一丸となって高め合う機会で、職員それぞれの学んだことの発表や、看取った患者さんの振り返りを共有しています。正直、かなりハイレベルだと思います。
日頃連携する訪問看護ステーションや薬局のスタッフさんも、時々参加してくれます。
Q.地域のかかりつけ医としてさまざまな活動を実施しているとお聞きしました。具体的な活動内容を教えてください

二ノ坂先生:
当クリニックの2階にあるホールで、デイホスピスと遺族会を開催しています。
ボランティアさんを中心に運営しているデイホスピスは、主に外出機会の少ない患者さん・ご家族が参加します。参加者同士の交流が社会とのつながりにもなっています。
初めてデイホスピスに参加した患者さんが、2回目・3回目と回を重ねるうちに、表情がどんどん明るく変わり、それを見たご家族もさらに喜んでいたという例もありました。
遺族会は、当クリニックが看取った方を中心に、ご家族同士で思い出話等を話し合う場です。このようにグリーフケアにも力を入れています。
Q.先代のお父様からクリニックの院長を引き継いで尽力されてきたと思います。どのような想いで仕事と向きあってきましたか?
二ノ坂先生:
僕の子供時代から、父は在宅医療の第一人者として有名でした。そのような父の姿を見て「いずれ自分もこの仕事をするんだ、しなきゃいけないんだ」という、目標というよりは使命感みたいな意識がずっとあった気がします。
そして医師になり、当クリニックの非常勤を経て、常勤と同時に副院長になった時に、個人の過度な頑張りに依存して成り立っている組織では長く続かないと思いました。
個人として「これだけやらないとできない」ではなく、「こうすれば誰でもできる」と言える体制を作ることが大事だと思います。必要なのは、サステナブルな体制作りです。
Q.ファストドクター導入前の在宅診療の体制はどうでしたか?

二ノ坂先生:
ファストドクター導入前は、自院の採用のみで24時間365日のオンコールの体制を整えていました。
恵まれていた頃には、オンコール対応可能な医師が、非常勤医も含め5名という時期もありましたが、2023年度には私を含めて2名に。それから間もなく、もう1名が退職し私のみになりました。
院長になり2年ほどが経ち、オンコール以外の負担もじわじわと増えてきたなかで、私以外にオンコール対応できる医師がいなくなり、今までに味わったことのない感覚になりました。“人が壊れるってこういうことか”と・・・。
その少し前に、ファストドクターとコンタクトを取っていたのがせめてもの救いでした。このままでは自分が倒れてしまうと思い、8月半ばにファストドクターに再度コンタクトを取って、9月からサービスを利用できるように急ピッチで準備を進めました。
導入の直前は、「今日は倒れなかった、今日は倒れなかった・・・」という綱渡りの日々でした。ギリギリの状態でしたね。
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Q.ファストドクターのサービスを知ったきっかけを教えてください
二ノ坂先生:
はっきりとは覚えていませんが、SNS等の広告や医師同士の会話で、ファストドクターのような往診代行サービスが存在することは知っていました。なので、実際に自分で検索して問い合わせたと思います。
ファストドクター以外にも往診サポートサービスの選択肢は1社だけありました。
ただその1社は、その時点で“もうすぐ稼働開始”という状況だったので、今頼れるのはファストドクターしかない、ということでお願いしました。既にこのエリアで動いていたというのは、安心感がありましたね。
Q.ファストドクター導入前にはどのような不安を抱えていましたか?

二ノ坂先生:
当クリニックは先代の父から二十年以上続いており、24時間365日の在宅医療の体制を自分たちだけで整えてきました。それにこそ価値があり、当たり前だと思っていたんです。
ファストドクターと提携して往診対応を非常勤医師に委託することに対しては、本当にそれで良いのかと、葛藤は大いにありました。
父にも相談したところ反対はされませんでしたが、同じく今後どうなっていくのか不安や葛藤はあったと思います。
Q.実際に導入してみて後悔はありましたか?
二ノ坂先生:
この決断に後悔はありません。大袈裟ではなく、僕が生きる選択肢は本当にこれしかなかったので。
とはいえ、自分たちだけで全ての往診対応ができないことへの葛藤は未だにあります。葛藤はありますが、長期的に考えると賢明な選択だったと思っています。
地域医療・在宅医療がサステナブルであるためには、今後の在り方として必要不可欠な形になるんじゃないでしょうか。提携する以上は任せっぱなしではなく、検証とフィードバックを重ね、質を高める努力を続けないといけないと思っています。
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Q.二ノ坂先生の精神的負担は解消されましたか?

二ノ坂先生:
2023年9月から実際にファストドクターのサービスを使い始めて、まずはとにかくホッとしました。気持ちが緩んでみて初めて、これまで極度に張り詰め過ぎていたことに気付きました。
張り詰めていた分の反動は思いのほか大きく、すぐに本調子とはいきませんでした。心身の回復には、けっこう時間がかかりましたね。今はだいぶバランスがとれるようになりました。
Q.往診する医師の質の面はいかがでしょうか?
二ノ坂先生:
ファストドクターのシステムや情報共有の面については、十分機能していると思います。
当初から懸念していた医師の診療の質については、患者さんとご家族、施設のスタッフさんにアンケートをお願いして、検証してみました。
結果を見ると、満足度にはバラつきがありました。「初対面ながら事前によく情報を知ってくれていた」「親身になって話を聞いて、病状を説明してくれた」など、非常にポジティブな回答もあり、それに関しては私からも直接お礼を言いたいくらい感謝しています。
一方で「事前情報を十分把握していなかった」「診察や説明が不十分だった」「聞きたいことを聞けなかった」といった回答もあり、心苦しく感じました。
総じて、医師個人の接遇やコミュニケーションに依存する部分が大きいと思われました。
反省すべき点については、会社を通してフィードバックして、都度改善をお願いしています。
Q.その他、思いもよらない改善につながったことはありますか?
二ノ坂先生:
オンコール可能な医師を自前で集めるのはかなり大変で、途方に暮れることもありました。
ファストドクターと提携してからは、オンコールのために新たに医師を雇う必要がなくなったので、リクルートのストレスがなくなりました。この点はけっこう大きかったです。
Q.今後、ファストドクターのサービスに期待することをお聞かせください
二ノ坂先生:
ファストドクターに1番期待することは、このサービス自体がサステナブルであってほしいということです。これがなくなってしまうと考えると、ぞっとしますね(笑)
在宅医療をサポートするシステムとしては素晴らしいと思いますので、医師の診療の質の安定化、さらなる向上を目指してほしいですね。そこには僕も尽力したいと思っています。
さらに言うと、今は都心部が中心だと思いますが、もっと都会から離れた地域もカバーできるように拡充してほしいと思います。そういう地域にも、文字通り命を削って頑張っている医師がたくさんいるので、救ってあげてほしいです。
Q.最後に、現在ファストドクターの導入を検討している在宅医療機関の担当者さまに向けて、メッセージをお聞かせください
二ノ坂先生:
医療者、特に在宅医療に携わる人は、そもそも頑張り屋さんが多いんですよね。他の在宅医とオンコール体制の話題になると、「うちはまだ自前で大丈夫。昔はもっと忙しかった」とか、「日中きちんと管理していれば、夜間呼ばれることはそんなにないから」などと言われることが多いです。
私も、ファストドクターを導入する前なら、同じように答えていたと思います。それが在宅医のあるべき姿だと思っていたところもあります。しかし、一旦限界を感じた今思うのは、個人レベルの過剰な頑張りだけに頼って在宅医療を永続させるのは無謀だということです。
それぞれの医療機関でお考えはあると思いますし、このような往診サポートサービス以外にも方法はあるかもしれません。いずれにしても、患者さんのためにも自分のためにも、次世代の医療者たちのためにも、個人レベルではなく、システムとして長く安定させる在り方を考える必要があると思います。
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